自分は自分で言った事を正しくするため、ぐちゃぐちゃのパフェになる。

人間ハンバーグの作り方。そんなのを教えてくれたのは前の彼女だ。
ストレスに負けそうな駄目な大人と、地下鉄と、迷惑にならない時間帯。
彼女…寛和はこんなことを言っていた。人間ハンバーグって不味そう。
動物と植物と炭素やらを吸収した穢れた体を食べたくは無い。

「食べたら、犯罪じゃん?」

その問いに、寛和は答えた。

「動物は動物を食べるじゃない、それは別に犯罪じゃないじゃん?
なのにさ、どうして人間を食べるのは駄目なの?」

それもそうだ、と一瞬納得してしまった。俺の周りに寛和のような奴は全然居なかった。
今も過去形になってしまうのが少し嫌だ。
寛和が居ないのは、俺にとってコーンフレークの無いパフェに思える。
そんなことを言うと、辺見に怒られるのだけれど。
辺見は、本名辺見くらら。くららをどうやって書くのか俺は知らない。
まだ、辺見とは付き合って1ヶ月しか経ってない。探り合っている状態。
俺のことを今全部教えてしまうのなら、俺達はすぐ別れてしまうと思う。
全て知ってしまった人は、飽きて別れるしかないのだろうから。
それに、今辺見に寛和のことを言えば、辺見は俺のことを変人だと思う。

「人間は食べたら処理が大変じゃん。」

俺は、寛和に対してこんな答えを返した気がする。
それに、寛和はうんそうだね、と言った。どう考えても納得してなかった。
寛和と俺は決定的に何かが違っていた。寛和は頭が良かった。
それと、関係はないのかもしれないけれど。寛和は同性愛者だった。
それと、寛和は男だった。これを言ったら、きっと辺見は俺から離れていく。
ついでに、恐ろしい噂を立てるかもしれない。
先生の耳に入れば、恐ろしいことになるから言えない。

「安斎はさー、私の前に付き合っていた人、居る?」
「居ない。」

生きていないのだから、別に居ないと答えても間違ってはいない。
寛和は、飛び降りた。
そのとき、俺は寛和の家で料理を作っていた。
寛和に襲われたくないから、寛和の暇潰しの食事を作るのが俺の仕事。
完成して、寛和を呼んでも寛和は来ない。
懐いていた犬が、急に居なくなったような気味悪さだった。

「嘘だ、安斎はもててたって言ってた。」

寛和が死んだことを思い出すのと、辺見と会う時は被る。
あの気味悪さの中に、水が落ちてくるような感覚を味わう。
辺見が水のように心地が良かったが、そのときだけは少し苦手だ。

「安斎、返答なしは悲しいよ?」
「ごめん、考え事。」

手を祈るように合わせて、辺見に言った。そうすると辺見は黙ってくれる。
こんなところは、寛和と同じだった。寛和も辺見も空気を読んでくれる。
黙って辺見がストロベリーパフェを食べているときの音を聞きながらあの時のことを思い出した。

寛和の持論は、パフェにならない奴の言葉を信じるな。
俺に寛和はその持論を言ってきた、付き合って1日目の1時間目。
だったら、今寛和が言っていることも信じられないと俺は返す。
そうすると、頬を膨らませて「安斎は屁理屈だね。」と言った。
これも、辺見と被る。辺見も寛和も俺を安斎と呼び捨てた。
ただ、2人に俺の下の名前を教えていないだけだけれど。
寛和と付き合って2ヶ月目、寛和はパフェになった。
料理を作り終わったときに、自分のマンションの屋上から飛び降りて。
ぐちゃぐちゃの死体を俺は見ることが出来た。その時口から零れた声。
「まさに、肉と血のミックスだね。」今更ながら、それは正しい気がした。

「辺見ぃー。」

俺は何故か、辺見に話しかけてしまった。考え事をして話すなと言ったのは俺なのに。
辺見はストロベリーパフェから目を離して俺を見る。
食べるのを邪魔するんじゃねえ、と目が語っていた。

「ごめん、何でもない。」
「ああ、そう。」

また夢中でパフェを食べる辺見。そのパフェが、何故か寛和に見えた。
ぐちゃぐちゃに辺見はパフェを混ぜる、それと死体が被る気がした。
だけど、それはあまりにも気持ち悪い。それに辺見が死体を食べているのは考えたくない。

寛和は、自分から飛び降りたのではない。落とされた。誰に?殺人犯に。
屋上には、連続殺人犯が篭っていた。それを俺らは知らなかった。
寛和もまさか、そんな自分が間抜けな死に方をするだなんて思ってなかったと思う。
出来れば人に迷惑を掛けたくないから土葬よろしく、といっていたし。
マンションは家賃を安くしても借りられない状況。他人事だけどごめんなさい。

「安斎ー。」
「何?」
「前に付き合ってたカノジョオトコのこと教えて。」

コーヒーを俺は噴いた。

俺は、辺見に寛和のことをその内、教えるんだと思う。
でも、教えないことは教えない。寝たのかなんて一生教えない。
墓まで持ってっていくことが出来たのなら、俺は辺見と別れないで済むんだと思う。

辺見に、寛和のことを教えると、辺見は寛和の死体に見えたパフェを吐きそうになった。
寛和の死体よりも、パフェの方が綺麗に見えた。ぐちゃぐちゃのパフェと死体、対照的で似ている。
でも、噴かれるのは困るなあと感じた俺が居た。
inserted by FC2 system