人皆が平等だというのならば、どうして貧富の差が出来てしまうのでしょうか。
そんな事は誰も、そう、ペテン師だってわかりません。気づいたら世界はそうなっていたのですから。
それに、ペテン師は別にそんな事関係ないのでしょう。だから、平等等と言えるんでしょう?
もし、それでもペテン師が平等だと言い切るのなら、何故私には両親が居ないのかと問いかけたい。
父さん、母さん、拾ってくれてありがとう。こんな愛想の悪い子を娘にしようと思った2人の心が娘はわからないよ。


「おっ帰りー、サク姉ちゃん。今日も奈緒さんと帰ってきたのか?」
「ただいま。…そうだけどー、ユウ何か奈緒に用あった?」
「いや、ないけ「お帰り咲!外寒かったでしょ?風邪ひいてない?」
「大丈夫だよ、母さん。」

家の扉を開けると、自分の名前がカタカナだから私の名前もカタカナだと思い込んでいる弟ユウと、 小さい時から愛想笑いしか出来ない私を娘にしてくれた母さんが居ました。
母さんの大きな声には、私もユウも2人とも、同じタイミングで突っ込みました。 …4歳の時から暮らせばこんなに息が合うんだなあ、とある意味関心です。
でも何故か、養護施設に居た私はユウより第6感とやらが優れています。逆に、彼は危ない事にも余裕で突っ込む。
見ているこっちがハラハラするのですが、ユウは何でもやれました…まあ、勉強を除いてですが。
この泉家は、普通の家より少しお金持ち…といいますか、裕福です。父さんが一代で築きあげた会社は、 奈緒のお父さんとも深い関わりがあり(幼馴染だそうです。)2人が交通事故で死んだと聞くと、 自分の部屋から一歩も出ずに、引き篭もり。当然、会社は少し傾きました。
あまりの落ち込みっぷりに驚いた母さんは、その頃子供が出来ずに困っていて、たまたま養護施設の前を通り かかって私を見つけると…即、私は泉家の娘になる事が決まりました。
父さんは私を見るととても喜び、仕事をちゃんとするようになってクビになった社員をまた雇う事が出来ました。
代償として、その後数ヶ月間泉家に来た人は私の写真を見せられたそうです、可哀想に。

「なあ、サク姉ちゃん。奈緒さんの妹ってさ、4歳で両親死んだのにもうその時は悪いお兄さんとかとつるんでたって ホント?双子なのに全然似てないよな。」
「本当だよ。……ユウ、どこでその話聞いたの?」
「サク姉ちゃんと奈緒さんの電話で。サク姉ちゃんって俺等以外には敬語なんだな。すっごく意外。」

両家の御坊っちゃんが何をやっているんでしょうか。
ユウは私が泉家の娘になった6ヶ月後に、この泉家の長男として生まれてきました。
後半年待てば、私はいらなかったですね。と母さんに言うと、もう2人とも私の娘と息子だ、と返されました。
まったく、私の周りはこんないい人ばかりなのに。何で例外が1人だけ居るんでしょうか。
私はその時、絶対に養護施設へ逆戻りと思っていたので、その答えはとても意外なものでした。 当時の私は、そんな親切な人知らなかったんですよ。正に目からウロコ。
そして、やはりその後数ヶ月間泉家に来た人は、私とユウの写真を見せられたそうです。

「ユウ、本当にアンタって奈緒が好きだよね。」
「サク姉ちゃん、何言ってんの?」
「顔、赤い、弟。…桜家はね、お金に関しての才能が凄いの、それにセンスもいい。 奈緒は確り受け継いでるから、泉家も安心、以上。」
「ちょ、俺が会社引き継ぐのか?俺より長女のサク姉ちゃんだろ?」

ユウは母さんが小さい頃から会社を続くのは私だ、と刷り込んでいたらしく、ユウは私が父さんの会社を継いで、 自分は新しく会社を作るんだ、と信じ込んでいます。
5年の夏休みに、ユウは私と姉弟ではない事を父さんが泣く泣く伝えたのですが、ユウにとって私はもう姉という位置にしか存在せず、 それは一生涯変わらないものなんだそうです。じゃないと、返ってきた答え「何それ。」の説明がつきません。
…せめて、跡継ぎは自分だと私の刷り込んで置けばよかったです。

「まあいいや、何年か後に決めよ。」
「俺はー、父さんの会社なんて継ぎたくなーいーのー。
自分で新しく会社作って父さんと姉さんを越えるー。」
「ユウ、お前は父さんの会社が嫌なのか?!咲も継いでくれないのか?!」
「あ、父さんお帰り。」

また2人とも同じタイミングで言い、顔を見合わせて笑いました。
10年という月日は案外とても長いのかもしれません、私はこの泉に貰われて10年を送りました。
ペテン師が例え、どんなに人は平等といっても、もしユウや母さんが信じたとしても、私はどうしてもその言葉を信じる事 はできません。
だって、私はどこかが欠けている人間だから。私は泣いても涙の出ない人間ですから。
会社の社長とは思えないヘコみっぷりを見せていた父さんは、やりのこした仕事を片付けに2階へ。
ユウは母さんに言われてやり残している宿題を片付けに自分の部屋へと行きました。2人とも、態度が同じです。
何とか誤魔化そうとして、母さんに突っ込まれて仕方なく片付ける。DNAとやらは恐ろしいです。

「咲、奈緒ちゃんから電話入ってるわよー?」
「今行くー!」

珍しく表紙買いした小説を、ユウのベッドをせんりょうして転がりながら読んでいると、 母さんの声が小型のスピーカーから聞こえました。
この泉家は、少しばかり面積が大きすぎて肉声で会話する事が難しいんです。
この家に来たばっかりの時は、よく迷子になっていてその度にプレゼントされたペンダントのお世話になりました。
どこに居るかがわかる発信機付きのペンダント、その存在を初めて知った時には「人に一体何を付けるんですか!」 と言った記憶があります。今となってはいい思い出です。
奈緒からの電話に出ると、彼女は何やら焦った声で用件を言いました。……信じられないような言葉です。
口からついつい「冗談でしょう?」と声が漏れました、冗談じゃない事くらい知ってますが。
私は人の道を外れた…と言いますか、普通の方よりは平穏ではない生活を送ってきましたが、 ヤクザさんとの関係はありません。
でも、奈緒はその信じられない話を彼女らしく、簡潔にかつわかりやすく言ったのです。
「ヤクザが家に居るの、あの馬鹿妹と何か争ってて!」
彼女は一体何をやったのでしょうか、私は桜家へと向かいました。

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