泉咲、この世に限界と小さな馬鹿みたいな事を感じました。
何故、人は全て見た目で物事を判断するのでしょうか。わけがわかりません。
どうして美人だから得をするのでしょうか、そしてどうしてブスだからと損をするのでしょうか。
まったく、わけがわかりません。こんな世界、さっさと無くなってしまえばいいのに。
こんな所にはもう居たくねえ。
泉咲、中学3年。この世界をとっとと捨ててしまいたいと思います。


「でさ、信じられる?美々子はお年玉トータル5万5千円、私5万円。どこで5千円も差が出来たの?」
「さあ、ただ単純に奈緒に渡すのを忘れただけかもしれません。まあ、もう1つは言いたくもないんですけど。
美々子は無駄に可愛いですし、同性の私から見ても。」
「咲、あの顔に騙されんじゃないわよ。あの子、私に家事全部やらせてるんだから。
母さんも父さんもあの馬鹿妹には困ってばっかだったわ。死んだ時も、あいつはどっかで遊んでて。」

彼女は桜奈緒。私の親友で、美人の双子の妹を持っています。
両親はもう他界していて、妹と2人暮らしをしているそうです。
彼女と彼女の妹は、二卵性双生児という事で顔が全然似ていません、勿論性格も。
奈緒は自立タイプ…と言いますか、1人で何でも出来るタイプです。逆に妹はなよなよーっとしていて。
何て言いますか、人に頼らないと生きていけないようなタイプです、それが男心をくすぐるのだとか。
わけがわかりません。私は女ですから、わからないしわかりたくもないのですが。
周りに知られてはいませんが、彼女は委員会などの面倒な仕事は全て他人任せです。
それに、はっきり言って頭はよくありません。なのに、何故か男の先生が担当の教科は5ばかりという結果。
こんな事があるから、日本はどんどん壊れていくんです。他の国に永住してみたいです。

「そうだったんですか、私は美々子が病院にかけつけて、奈緒は…という噂を彼女から聞きました。」
「アイツが?…今すぐ殴りに行きたいんだけど。」
「落ち着いてください、奈緒。今殴れば奈緒は確実に悪者になります。証拠を集めて、1番最後に訴えましょう?
友人間での10万円以上の盗みなんかは、法に触れてますし。他にも色々と。」

私と奈緒は、何年も美々子に悩まされてきました。小学校の時は図工で私と自分の物をを入れ替えたり、 読書感想文を自分の物と奈緒の物を入れ替えたり。
しかも、先生に言っても必ず私と奈緒を悪者扱い。理由は…もう飽きました、以下省略とさせていただきます。
こんな事があって。私は自分の親友と一緒に親友の妹を訴えようとしています。どんなに小さい証拠も残さずに。
(奈緒が自分に対しての美々子の嫌がらせ、悪行日記をもう見たくないからと言って処分しようとしたのを 止めるのは大変でした。)

「あ、咲。そういえば沙良の三回忌、もうそろそろじゃない?」
「ああ、そうですね。そのうち一緒にお墓参りにも行きましょう。大好きだったガーネットを持って。
…沙良は今でも私達の事を覚えているのでしょうか?」
「当然でしょ?それに、もし私が忘れられていたとしても咲は絶対覚えてるって。」
「そう…だといいですね。」



私達の美々子を訴える、という行動には2年前までもう1人の参加者が居ました。
小4の時のクラス替えで一緒のクラスになった散林沙良。彼女は何故か私達2人と一緒にいて、 彼女も当然のように美々子の被害を受けていました。
初めて彼女が被害を受けたときには、こんな思いをずっとしてきたの?と泣いてくれました。
ですが、彼女は自殺をしました。学校の屋上から、飛び降りて。
しかも、彼女はいつも運が悪かったのにその時だけは即死をまぬがれ、救急車の中で死亡。
私独自の情報網を駆使した結果、美々子が自分は沙良にいじめられているとデマを流し、クラスメイトはそれを 信じて毎日沙良のことをいじめていたのだとか。
沙良のお母さんに訴えないで!と言う沙良のクラスメイトがあまりにも愚かに見えて、私は泣きながら笑って言いました。
お前達全員、人殺しだと。
いじめていた奴等が全員出て行くと、沙良のお母さんはボロボロと涙を流しながら、私にごめんね、と言ってくれました。
どうして謝られているのでしょうか。沙良がいじめられる事くらい予想出来た筈なのに。
ごめんなさい、と何度も謝りました。奈緒と一緒に、ずっと。
全部が終わると、沙良のお母さんが咲ちゃんと奈緒ちゃんへ、と小さく書かれた封筒を渡してくれました。

「 咲ちゃん、奈緒ちゃん。きっと、私は今この世にいません。
午後のお茶も出来ません、美味しい葉が部屋にあるのに。
面倒な事になってすみません、でも私はこれしかできないんだ。
んとね、もう死ねって言われるのが嫌だったの。だったら死んでやろうと。
眠れずに書いてるよ、これを。だって、死んじゃうんだよ。
カチコチだよ、手動かすのも辛いや。
あなた達と出会えて良かったです。
サクラサク、この中に散るなんていらないも
んね。そうでしょう?
 じゃあね、咲ちゃん、奈緒ちゃん。沙良より。」

妙な改行に、沙良らしくない言葉の選び方。少しずつ外れている言葉の意味。
最初はわからなかったけど、何十回も読んでいく内にやっと意味がわかって、また泣きました。
最後まで、自分の母親と私達の事を思ってくれて。なんで彼女が死ななければいけなかったのだろう、と。

「奈緒、私は戦争とかのニュースを見て、死んでいい人間なんて居ないと思っていました。
沙良だってそうです、なんで死ななければいけなかったんでしょうか。」
「咲、ごめんね。あの馬鹿妹と血が繋がっているなんて考えたくないよ。」
「私達はもしかしたら間違っているのでしょうか。人はやはり、見た目で判断するだけなのでしょうか。
もし本当にそうだったら……。」

そこで私は家へ着きました。私は大きな門をくぐり、奈緒はその4つ隣の家へ向かいます。
沙良の最後の言葉だった、「ありがとう。」嗚呼、私はあの言葉でどれだけ救われたのでしょうか。

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