小さいとき、意地悪な女子から「お風呂でだるまさんが転んだを思い出しちゃ駄目よ、考えるだけでも駄目。考えてしまった時にはもう頭の上には幽霊がいるんだって」と言われたことがある。
それを信じてしまって、一週間近く風呂のお供が大量のアヒルだったのは今思うとほほえましい。
今はそんなことも忘れて普通に風呂に入っているのだが、ふと、この季節にありがちな心霊特集を見て思い出してしまった。
頭に流れるだるまさんが転んだののフレーズ。確かあれは両手足を切られた人間のことをだるまと呼んでいた筈だ。そちらの方が幽霊より恐ろしい。
俺は髪を洗い終え、浴室の天井を見た。両手足の無い髪の長い女がそこにはいた。
…いや、落ち着け自分。科学が全てを解明するであろうこのご時世に幽霊?なんてナンセンスなんだ。
冷静になれ。俺は理系だろうが。だが体は感情より素直だった。

「出たぁぁぁ!」

思いっきり疾走。足は人並みだが今の俺なら日本新記録ぐらいは余裕で作れるだろうと思えるぐらいのスピードだった。
全裸で一気に自分の部屋の布団に入る。布団の中は聖域だ。だがその中には先程のだるま女がいた。

「あなたの腕を、あなたの脚を、私にちょうだい」
「できるかー!」

さっちゃんみたいだな、つかてけてけかこれは!フレーズは歪みの国のアリスか?!
小学生時代に読みあさった怖い話シリーズに出てきた幽霊が頭に浮かぶ(一部ホラーノベルズゲーム)。すると目の前には、両足のない少女に上半身だけの女が現れた。
駄目だ考えるないっそ気絶してしまえ俺!だが簡単に意識を失うことは出来ない。ゆっくりと幽霊達は近づいてきた。まるで蛇が動くかのように。

「体をちょうだい」
「あなたの命をちょうだい」
「全部をちょうだい」

ああ一人でも五体満足がいればびっくりするほどユートピア!をやったのに。
だがそんなことをしたら即お陀仏だ。まだ行きたくない。万一パソコンとか見られたら二重の意味で死ぬ。
考えている間にも近づいてくる。べったんと腕だけで動くてけてけ。血が上半身にべったりと付いている。内蔵の一部が飛び出し、吐き気がもよおされる。
さっちゃんの足も気がつけばぼたぼたと血が流れていた。白い骨が浮いており、肉だけが轢かれて持っていかれたのだろう。
だるま女は二人のように血は見えなかったが、狂ったように笑い声を上げていた。
全部が近づいてくる。逃げようとしても竦み上がる足。遂にだるま女が、俺の首を思い切り噛んだ。

「うわぁ!」

目が覚めた。何だ、テレビの最中で寝ていたのか。よく心霊特集の間で寝れたな自分、と軽く笑う。夢の内容は忘れてしまっていた。
ふと時計を見ると、風呂に入る時間だ。そうだ、風呂と言えば…と、俺は自分が小さいときに言われた台詞を思い出すのだった。
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